続・亡霊(ファントム)たちの宴21
新田原の春風 その3
その夜の宴会場は、先にも話したけれど鯨を食べさせてくれる店だ。鯨を食べるのは野蛮だとか、色々いう人がいるのは全否定まではしないけれど、これまでご先祖様から脈々と続いてきた鯨の食文化だから、食べたくない人にまで強要はしないから、どうかそっとしておいてほしい。
というわけで、宴会場へと向かったわけだけれど、場所はといえば、がっかり名所として名高い「はりまや橋」の交差点から南側の通りを東の方へ行き、以前デパートが有った跡地東側の南北の通りだ。更にすぐ東側には、夏目雅子さんの「鬼龍院花子の生涯」で舞台となった陽暉楼(現、得月楼)がすぐ隣にある。予算の都合で陽暉楼での大宴会とはならなかったが、まあ映画の舞台のすぐ近くの店ってことで今回は勘弁してもらおう。
店の近くまで行くと、向かいから見覚えのあるエンピツみたいな男が歩いて来る。なんとまあ、珍しいことに遅刻常習者のKHだった。感心かんしんと、頭を撫でてあげながら店に入ると、気の早い高知迎撃部隊は概ね揃っていた。
「かんぱーい!!」
最初のビールを流し込んで、早速頂いた「金霧島」と「野うさぎの走り」を披露する。飲み放題だから、店の酒を飲んだ方が勿体なくないんだけども、せっかく良いお酒を持ってきてくれたんだから、酔っぱらってから飲んだのではそっちの方が勿体ないような気がして、一部の「えーっ、もう焼酎に行くがァ!?」などというお酒様に対して失礼な言葉は一切聞こえなかったことにして、さっさと段取りを進める。
「焼酎様に対して失礼になるき、水割りなんていう軟弱な飲み方はゆるさん!ロックで、男ならロックで飲まないかん!!横にチェイサー置いちょってもかまんき、ロックで飲みや」
漢(おとこ)の飲み会に、民主主義などという邪悪な思想は通用しない。美味い酒と旨い肴、そして真っさらな腑(はらわた)をさらけ出す気持ちがあればよい。
先ずは「サエズリ(鯨の舌)」を「酢みそ」で頂く。うーん、鯨喰いにはたまらん一品。これまでサエズリは日本酒しか有り得ないと思っていたけど、金霧もなかなかいけるちや。「どろめ」も「ぬた(にんにくぬた)」で食べるとシビレルき。寿司に鯨の刺身、鰹・鯨・うつぼのタタキが並び、みな順調に手をのばしてくれているので一安心。会話も弾み、気が早いながらも今年の新田原航空祭での飲み会の話になる。
「店の外になるんやけど、ホルモンのええ店があるんですわ。中やと、そら煙でモワーなって、とても居れたもんやないから、厚着して外でガー食うたら美味いでっせ」
うん、どんな店か想像できないけども、なんだかEMさんの説明がえらく美味そうで、すっかりその気になって「今年も新田へ行くぞ、おー!!」なんて盛り上がる。そしてふと思い出して、聞いてみる。
「やすらぎってまだ復活してないですか?」
「うーん、体調が良うないみたいなんと、基地のもんなんかも、西都とか高鍋へ出かけるし、経営的にもキビシイかったかもしれんなぁ」
時代の流れと言ってしまえばそれまでかもしれないけれど、ぼくにとっては、知り合ったファイターたちとの原点の店だけに、このまま終わらせてしまうのはあまりにも惜しい気がしてならない。
「EMさん、やすらぎ買い取りません?」
ぼくの唐突な言葉にEMさんは一瞬キョトンとして、そして少し寂しそうに笑って
「いや、わしそんな金無いし…」
この言葉を聞いて、ぼくはとても嬉しくなった。ぼくだって本当にそうなんだ。できることなら、やすらぎ丸ごと買い取りたい。EMさんが西都に家を買って住んでいることを知っているのについ言ってしまったんだけども、その返事が「西都に家が有るのに、そんなもの要らない」じゃなかったことが、その夜ぼくにとって一番嬉しい言葉だった。


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